昨年、このブログで「Facebookの仮想通貨『Libra』」「リブラとアンチ」という記事を書いた。
自分としてはフェイスブックのデジタル通貨「リブラ」には世界のゲームチェンジャーとしていくばくかの期待をしてきた。そしてそれ以降の一連のリブラをめぐるメディアの動きをみて、やはり「世界の基軸通貨:ドル」を脅かす存在は今の秩序においては認められないんだなあ、と実感したりもした。
ちょうど「MMT理論」が流行るなかで国家(陰謀論的にいうと別の主役がいるが)の通貨発行権の強力さをいまさら学び、また通貨(貨幣)の虚構性への関心も個人的に増している(→『天下の秤』という物語を世に出したい!と活動準備中)。
さりながら今のコロナショックを鑑みこれから世界的にMMTにのっとって巨大な財政支出が実践されていくであろう(と期待する)世の流れの中、特に米国追従(心中?)型国家の日本にいる身としては、ドルと円の信用を脅かす存在はタイミング的にも歓迎されないよなあ、と思ったりもしている。
そんなところに「リブラの軌道修正」のニュースが入ってきた。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58259110Q0A420C2000000/?n_cid=SPTMG053(2020/4/20日経:「FTデジタル通貨「リブラ」が告げる夢の終わり」)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58341320S0A420C2000000/(2020/4/21日経:「FT・Lexフェイスブック、デジタル通貨構想を衣替え」)
リブラ構想が各国金融当局に換骨奪胎され、結局、SNS(フェイスブック)用の小さな決済サービスに落ち着いたようだ。記事曰く「フェイスブックが提供するペイパル」に。
今月16日にリブラ協会が発表した改訂版「リブラ2.0」デジタル通貨計画では、当初計画と以下の3点が大きく変わったという。
① (当初構想)通貨バスケットにリンクする単一のデジタル通貨を発行
→(2.0構想)個別の通貨を裏付け資産とする複数のデジタル通貨と、それらの一部を組み合わせる「デジタル合成」版のリブラコイン(国際取引や自国通貨を裏付けとするデジタル通貨が発行されない国々で使用)を発行
② (当初構想)最終的に誰もがネットワークの運営に参加できる非中央集権方式を目指す
→(2.0構想)規制当局からの許可を必要としない「パーミッションレス」なシステムを断念する(=限られた管理者がいて、それを当局が取り締まる形態になる)
③ (当初構想)?
→(2.0構想)リブラ協会がネットワーク上に開設される全てのウォレット(財布)について顧客確認(KYC)を行い、各国の規制当局に委ねずに独自の監視体制を強化する
ただ、これだけではまだ「フェイスブックの野望は潰えし」とは言えないのかも。
特に、これから世界中で個人データという宝の山をめぐる攻防が繰り広げられる中、③の「各国の規制当局に委ねずに独自の監視体制を強化する」というのは既存体制への反発に見えたり?もする。
フェイスブックに限らず、今、多くのIT企業は広い意味での「金融業者」になろうとしている。
これまでこのブログでは、この「『金融サービス仲介業』のニュース」ほかで折にふれてこれからの金融および決済ビジネスは、コミュニティや特定の経済圏をベースに複数形成されるだろう、と書き綴ってきた。特に有力なe-コマースやコミュニティ(toC)系IT企業はすべて独自の決済機能を持つ「金融関連企業」になる可能性がある。
以前書いた「シンガポールのネット銀行にe-スポーツ企業が参入」のシンガポールに限らず、アメリカでも先日、フィンテック系企業が銀行としてみとめられた。GAFA・BATHはどこも情報と金融サービスを結びつける取り組みを行っているか、これから行おうとしている。
IT企業のすべてが「銀行」になるわけではないだろう。むしろ「個人にまつわる情報の流れ」と「カネの流れ」は同心円部分もあるが別物だ。
カネの流れは厳格に管理され厳重なKYCやチェックが課されるが、それ以外の個人データの方は逆にプライバシー保護に傾くのが建前論のはずだ(中国は例外・・・とはいえ、コロナの長期化で人権重視の国々でも中国的な全体主義的?管理体制に傾いていく懸念はあるが)。
個人データのほうは大きなコミュニティや顧客基盤を持つIT企業が厳重管理の上、顧客同意のもとで一定の商業利用に供し、一部は顧客に対価を支払いつつデータの“囲い込み”を志向するのだろう。
そういう意味で、日経(FT)記事にある「耐検閲性」は現在各種デジタルマネーやポイント制度をもつ世界のすべての企業やサービスに当てはまってくる問題だ。
フェイスブックは、「『マネー』の管理は体制側のルールに従うが、『個人データ』の流通は自分たちのルールで運用するからね」で押し通そうというのだろうか。
とはいっても・・・いかにGAFAでも国家権力が強権的にデータ開示を要求してきたら突っぱねられないと思うが(むしろ日本のIT系はみんなそんな印象)。
このあたりの帰趨について、今後も関心をもってウォッチしていきたい。
さて、話はかわって、今、自分が推進している(そして苦労している)「Selamat!(スラマット)」。
本来、このコロナ下だからこそ必要とされるプラットフォームで、本当は簡易版でもなんでもいいから実体を見せて世の中に出したいのだが、まだその賭場口にいる状況だ。
そして、この構想の先には「SP(スラマット・ポイント)」というコミュニティ内決済を目論んでいる。グローバル・サービスを目指しているので、自分も海外での流通において為替変動リスクを回避するために各通貨のポジション管理などを懸念点として挙げていたり。
なので、リブラの帰趨が長らく関心事だったりしたわけだ。
ちなみにフェイスブックもSelamat!(スラマット)も人と人(あるいは団体)との“つながり”を外に示すビジネスでもある。
フェイスブックでは、本来秘匿すべき個人属性情報が“つながり”情報と一緒に流出したり、“つながり”情報を恣意的な世論誘導に利用されて問題になった。では、Selamat!(スラマット)ではどうだろう?
実はSelamat!(スラマット)は仕組み上、“つながり”情報が最初からしっかり世の中に開示される。もちろん、個人属性情報の流出には十分気を使わないといけないが、フェイスブックほどではないと思う。
恣意的な世論誘導については、すべてのメディアに宿命的に存在するリスクなのだろうと思う。一方でSelamat!(スラマット)は「コンテンツ」「決済※」「つながり」自体がメディアで、メッセージやSNS機能は対象外(連携先、というだけ)なので、これもフェイスブックほどではない気がする。
※正確には決済ではなく「応援」。この記事では“決済”の方がわかりやすいのでこう書いた
まだ簡易版すらできていない現状なので、これらを妄想、と笑うのは勝手だが、新しいことはすべて妄想(いや、空想、ぐらいにしておくか)から始まるのだ。今、ではなく、未来を見るべし、だ。
今のコロナ禍の先に、「アド・コマース(広告付き販売)」による「“徳”の経済圏」が到来する可能性は大いにあると思う。しかも、そのターゲットは世界中に幅広い。
以前、ニューヨーク在住で金融ビジネスに従事する旧友から「しっかり準備してあきらめずに挑めば。Selamat!(スラマット)は必ず成功するはず」という言葉をいただき、それを一つの励みにしている。
いまいま、なにをどう準備すればいいんだろう・・・と悩むところもあるが、あきらめず、挑みたい。
[…] 過去記事「リブラ終焉か? そうでもないか? そしてスラマットは?」や「シンガポールのネット銀行にe-スポーツ企業が参入」にも書いたように、自分は「新しい金融」とは、情報と金融サービスが融合したものになり、場合によっては金融ビジネスはE-コマースの一環として集約されてしまうかもしれないとすら危惧している。 また、「金融」の枠が広がり、ネット上の特定経済圏での通貨に準ずるもの(暗号資産、電子マネー、各種ポイントのほか、デジタル資産なども含む)が同じサービス内で取り扱われるだろう。 […]