●SBIと三井住友FG、株の私設取引所新設(日本経済新聞 2021年1月29日 2:00)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68630900Z20C21A1MM8000

まとめ:(2021/2/21追記:上記日経記事ではなく、このブログ記事全体の「まとめ」。文章があまりに長くなったため、最初にこれを設けることにした)
・SBI‐三井住友のPTSには大阪国際金融都市構想含め期待する
・デジタル証券は2年後だが、STOはそれまでに(社債、不動産、美術品、映画版権等)
・美術品はオープンアーカイブ化含め、期待の市場
・機関投資家先行だが、期待は個人投資家
・「ファンマーケティングへの援用」が「新しい金融マン」を作り出す
・映画版権への投資は、根底に「ゼロイチクリエイター」へのリスペクトを
・金融側のメンバー主導、シニア活用で、民主的コンテンツ製作・ビジネス構築のエコシステムを

<SBI‐三井住友のPTSと大阪金融都市>
これまで、『金融都市構想と後期倭寇、その他』『STOとアイドルファンドと徳の経済』『SBIの大阪金融都市構想とぐるぐる』などでSBIにまつわる記事を取り上げてきた。自分はSBI北尾社長の回し者でも関係者でも全くないのだが、自分が気になる“新しい金融ビジネスの姿”を追うと、どうもこの会社が目に入ってしまう。
で、『デジタル証券のシンガポール集中とエンタメファンド』でも取り上げた、大阪に設立する私設取引所(PTS)のパートナーが、大阪地盤(住友)の三井住友FGになった、という記事。PTSの運営会社「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」を、SBIHD:6割、三井住友FG:4割の出資で3月に設立するそうだ。
「大阪を国際金融ハブに」実現のためには、必要不可欠なパートナーシップだと思う。この連携がその呼び水になってくれれば、と期待する。

<PTSでのデジタル証券流通は2年後に>
このブログでずっと取り上げてきた「デジタル証券」については、このPTSで取り扱いがスタートするまで2年ほどかかるようだ。
「ODXはブロックチェーン(分散型台帳)技術を使い効率よく発行できる「デジタル証券」も23年をめどに扱う方針だ。20年に法律で認められた電子的に発行する資産で、既存の有価証券より小口で迅速に発行できる。SBIHDは社債や不動産、美術品、映画版権などがデジタル証券化され、市場が拡大するとみている。複数の事業会社や証券会社が一般投資家向けの発行を準備する。」(同記事より)

まあ、デジタル証券のイニシャルマーケットでの募集があって、初めてセカンダリーの展開が開かれるので、これから2年を待たずしてデジタル証券の募集、つまりSecurity Token Offering(STO)が続々、実施されてくることになるのだろう。

この記事でSBIが言うように、これまで上場企業など一部の発行体しかできなかった直接金融がすそ野を広げ、投資家に「社債」「不動産」「美術品」「映画版権」などの投資ニーズを喚起していくことになる。
これまでも主に私募で同様の投資対象を有価証券化する手段はあったが、「STO→PTSでの流通」という新しいマーケットを醸成し、結果、より幅広い投資資金を集めることが期待される。

昨年5月の金融商品取引法改正で認められたSTOだが、具体的投資案件はまだ出てきていない(と思う)。最初はおそらく、それなりにクレジットの高い案件が採択されるだろう。
ある程度実績のある未公開企業が発行する「社債」や、これまでの資産流動化型証券と同様の、明確なキャッシュフローを持つ「不動産」などが想定される。

自分は“エンタメとファイナンスを国内外につなげるクリエイティブ人材”を目標としている。そういう意味で、「社債」「不動産」以上に「美術品」「映画版権」等の“エンタメ金融”が気になる。

<美術品とPTSは親和性が高い?>
例えば美術品については、SBIグループにはSBIアートオークションという会社がある。ここはスタートバーンという会社と組んで、美術品に電子タグを貼り付けてブロックチェーンで管理する仕組みを導入している。(なお、ここで扱うのは現代美術品という限られた商品群のみ)
電子タグと紐づいた分散管理台帳で所有者情報などの履歴が追跡できることで、信頼に足る真贋管理さえ最初にできていれば(この会社での“真贋管理”の方法はよく知らないが)、オークションで取引される美術品の信頼度は担保される。

美術品市場とデジタル証券のPTSは親和性が高いかもしれない。
美術品は海外では富裕層向けオルタナティブ投資の一つで、日本でも数多くのコレクターがいる。
美術品と言ってもその種類は様々だし価値もピンキリなので、取り扱うのは一部のものに限られるとは思うが、例えば法人所有などで一定の評価を得ている作品をPTSで売買する、という流れができていくかもしれない。

そうなると、下部構造として美術品オークションが活発化するかもしれないし、美術倉庫での管理需要も増えてくる。倉で埃をかぶった隠れた名品を探し回る美術商や古物商も活躍しそうだ。
また、電子タグを使った美術品のブロックチェーン管理が一般化してくることで、副次的に美術品の「オープンアーカイブ」のようなものが出来上がっていくことになるだろう。

ただし、これはSBIグループが独占するような話ではない。世界中に複数の管理システムがあっても、現物とオープンデータベースのリンクさえ取れていれば、どこのオークションやPTS市場で取引されてもかまわない、と思う。

戦国時代、信長の「大名茶の湯(茶の湯御政道)」で茶道具の名品は1国に相当する価値を持った。さすがにそこまでは望めぬにせよ、デジタル証券としての美術品市場は裾野の広い有望市場だろう。

<機関投資家の参入>
上記の美術品は本来、個人取引が中心の場になるだろうが、デジタル証券の取引活性化のためには機関投資家の参入は欠かせない。

SBIグループには、先日、アメリカのSecuritizeとのパートナーシップを発表しているSBIデジタルアセットホールディングスがあり、機関投資家など大口のデジタル証券への投資・調達需要に対応する準備が進んでいる様子だ。
参考:SBI広報資料「SBIデジタルアセットホールディングスとSecuritize、Securitizeのデジタル証券発行・管理プラットフォームとSBIのデジタルウォレットソリューションを統合する計画を発表」

投資にあたって情報収集力が乏しい個人投資家にとって、適正なディスクロージャー(当初開示・継続開示)が欠かせない。デジタル証券もこのあたりのルール化が今後の肝なのだろうが・・・さりながら、日本の当局はとにかく規制、規制で屋上屋を重ねていく傾向が有るので、結果的にグローバル競争力を阻害させないか心配なところでもある。

いずれにせよ、当初はプロ投資家(機関投資家など特定投資家)を中心に市場形成されていくであろうことは想像に難くない。

とはいえ、デジタル証券がそのプレゼンスを発揮するのはむしろ、個人投資家マーケットだと思う。

<ファンマーケティングへの援用>
デジタル証券については、『デジタル証券のシンガポール集中とエンタメファンド』でも触れているとおり、「ファンマーケティング」への援用も期待されている。
例えば「上場株式」には発行企業と株主を繋ぐ「株主優待」の仕組みがあり、これは企業にとっては長期的にその企業のファン(ロイヤルカスタマー)を獲得するツールになっている。
とはいえ、株主優待は権利処理日時点で名義書換えされている顧客のみがターゲットになり、即応性もない。
一方、ブロックチェーン上で管理されるデジタル証券は、所有の移転がほぼリアルタイムで把握でき、かつ、特典の付与も自在に可能だ。
発行体企業が持つ個人データとリンクさせれば、株主優待よりきめ細やかなサービス提供ができる。

自分が思うに、これからの「金融」は「マーケティング」(なかんずく「デジタルマーケティング」)と不可分な世界になってくるはずだ。
そして、証券営業を筆頭とした(特に中堅企業オーナーなどの資産家を顧客とする)“富裕層ターゲット金融マン”は、「投資案件」としてだけでなく「ファイナンス+マーケティング案件」としてデジタル証券の活用を顧客に提言し、そのソリューションを提示することが求められる。

例えば、顧客である中堅企業オーナーに「『タレントA』のファンイベント」「『映画B』のファンイベント」などへの協賛とイベント売り上げのキャッシュフローを礎にしたデジタル証券を発行を提案し、タレントAや作品Bのファン層を投資家として企業のロイヤルカスタマーに取り込む(サロン化)、という戦略を提言・実施することが「新しい金融マン像」の一つになるのではないか。
そこにはマーケティング知識も必要だし、エンタメに対する造詣も必要だ。

もちろん、SBIが電●などメディア側の企業と組んでこういったソリューションを提供する方向性も考えられる。しかし、「金融」という規制業種では従事者の資質が問われる。
「証券外務員資格」だったり「適合性の原則」などの投資家保護ルールをきちんとわきまえ、ファン投資家への適切な提案やディスクロージャーを行える人材である必要がある。
自ずから、(“広告マン”や“マーケター”ではなく)“金融マン”が対応せざるを得ない。

これについてはいろいろと異論もあるだろう。しかし、これまで金融と映画・エンタメという異なる分野の接合点を探し続け、かつ、富裕層ターゲットビジネスに可能性を求めてきた自分としては、この方向を期待していたい。

<映画版権とクリエイティブへの還元>
ちなみに、記事に「映画版権」とあるように、一般的にSTO→PTSで求められるエンタメ投資案件は、前述の“企業プロモーション用『映画B』投資ビークル”証券ではなく、著作物として確定した(固定された)作品だろう。
今後、STOが映画の製作委員会を代替する映画ファンドの位置づけになり、完成させた映画(版権)を小口化してPTSを通じて個人投資家などに売り出す、という流れも想定される。

もちろん、映画への投資は完成リスクそのものが大きく営業成果もピンキリなので、STO案件は精査されるだろう。場合によっては、先に製作委員会などが完成させた映画(版権)を買い取る事業体ができ、そこがデジタル証券の発行者になる、という形態になるかもしれない。

いずれにせよ、小泉政権下の2003年の「知財立国宣言」以降、ずっと期待されていたが全く発展してこなかった「エンタメファイナンス」が、STO→PTSという形でようやく広がってくるかもしれず、その可能性に賭けて10数年を過ごしてきた自分としては、今、とにかく期待しかない状況ではある。

ただ・・・少し、これまでの「STO」から話が外れるが、「『コンテンツ・イズ・キング』と『天下の秤』」で書いたように、これがクリエイティブ、なかんずく「ゼロをイチに」したクリエイターへの搾取になってしまっては身もふたもないと考えている。

記事の「映画版権」は音楽でいう「原盤権」と同じで、その著作物(1/29修正:×著作物→〇固定された著作物としての音源)の様々な局面での利用により発生する経済的利得を生み出す源泉だ。
音楽の原盤権はショービジネスが発達したアメリカでは投資・利殖の対象であり、そのクリエイティブを担った者とまったく無関係に取引されてきた“悪習”が、最近になって問題視もされている。

参考:米投資会社がテイラー・スウィフトの原盤権を約312億円で買収した理由(Rolling Stone Japan 2020/11/20 17:30) /テイラー・スウィフトを憤慨させた、米エンタメ界の敏腕スクーター・ブラウンの野望(ローリングストーン ジャパン 2019/07/14 12:30)

上記参考記事では、テイラー・スウィフトはシャムロック・キャピタル(以前の原盤権保有者から買い取った投資ファンド)の投資家たちと“win-win”関係が築けているようだが、おそらくこういったケースは例外的だろう。
実際問題、お金を出す者がその立場を顕示してクリエイティブ側を搾取する構造が圧倒的に多い。映画の製作委員会における原作者や制作会社の低い位置づけについても同様だ。

例えば、多くの「アニメ作品」が製作委員会方式で製作されている。アニメの場合、マーチャンダイズ化(キャラクターライセンスに基づく各種商品化)による収益期待が大きく、玩具メーカーなどが出資と引き換えに窓口権を持つようなケースが多い。キャラクターライセンス・サブライセンスの売上は窓口権控除後、出資比率に応じて製作委員会メンバーに還元されることになる。
これは普通にビジネスとして定着しているし、問題があるわけではない。

でも、自分はなんとなく違和感を持つことがある。
例えば、劇場での公開。これは、まぎれもなく「アニメ作品」の版権の使用、と言える。二次利用のネット配信での公開。これも「アニメ作品」の版権の使用だ。
でも、「アニメ作品」のキャラクタービジネスは、「アニメ作品」の手柄だろうか?
もっと“川上”の、作品の世界観・キャラクター造形を作った大元のクリエイター(原作者など)の手柄なのではないか?

(1/29追記)カラオケの収入が「CD音源」の原盤権を持つ人たちに還元されず作詞家、作曲家というクリエイターに渡るように(「カラオケ音源」の原盤権保有者に権利があるのは当然だが)、金銭面でもクリエイティブ面でも直接的に世に生み出す工程に携わっていない権利者には(権利が譲渡された場合を除き)対価を得る権利がないのが普通だと思う。だから、すでにキャラクター・世界観が出来上がった原作をアニメ化した「アニメ作品」の権利者が、以降のキャラクターライセンスを牛耳るような姿は、(ビジネス慣習としての理解はあれど)なんとなく違和感を感じてしまうのだ。(追記終わり)

もちろん、アニメ作品を作るにあたって金を出す製作委員会の存在がなければ、その世界観やキャラクターは広く周知されることはなかったかもしれない。窓口権を持つ玩具会社が原作者のキャラクター造形などのクリエイションに影響を及ぼすこともあるだろう。

それでも、版権をお金で得た人が、(お金のない)クリエイターのクリエイティビティの対価を“多めに”受け取っている感じがする。

これは結局、「版権」を形成するにあたってクリエイティブ側に出資する能力がないから、という要因に帰結する気がする。
(契約上、成功報酬などでの還元はあり得るが、その権利を得るためのハードルは高い)

今後、映画の世界では、例えば上に書いた「企業協賛によるファンマーケティング・ビジネス」のような新しいジャンルの収益源が生まれるかもしれない。
また、これまで日本国内だけがターゲットだったが、今、一気に世界にマーケットが広がりつつある(作品によるが)。
その成果を「版権をお金で得た人」にのみ還元する構造ができてしまっては、“ヤバイ”気がしている。

先日の『オリラジとポケモンとSTO(雑記)』で、原作など“メタ”(源流、川上)な段階での(株式会社ポケモンのような?)ビジネスユニットが最初にあることが望ましい、と書いた。
これはまだ具体的なイメージではないのかもしれないが、原作段階で原作者と“二人三脚”できる「パートナー的投資家」とのユニットが、“作品ごと”に作れるようになればいいのではないだろうか。

<イニシャルなLLPとシニアビジネスマンの活用>
これはまだ“ぐるぐる”思考の段階で、まとまったアイディアではないが・・・。
これから、民主的なコンテンツ製作というのが一つのトレンドとして現れると思う。“メタ”な段階でのコンテンツにファンが集まり、そのファンが集まる熱量を期待して、企業マーケティングへの援用や映画などの高次な(川下)コンテンツ製作につなげていく、という流れだ。
メジャーな雑誌メディアではなく、ネット上の投稿サイトなどの素人コンテンツから“花開く”ケースもあると思うし、むしろ、そういうルートからの「構造化」ができるかもしれない。
そこを担うのが“金融マン”だとしたら? その可能性はないだろうか?

それは、有望なベンチャー企業を育成し囲い混むエコシステム、つまり、エンジェル投資家やVC、会計士、インキュベーション企業、といった、(“エンタメ産業”よりは)“金融ビジネス”に近い生態系を構築する、という取り組みだ。

例えば、「有望な原作を見つける」「“パートナー投資家”をマッチングする」「ファンを集める(寄付なども)」「集ったファンの熱量を活用する(スポンサー)」「川下(大型)コンテンツ化への物理的・金銭的サポート」といった一連の流れをサポートする、金融側のネットワーク上の仕組み、というイメージなのだが・・・。

原作者のクリエイターにはビジネス面のあれやこれやは全く分からない。パートナー投資家が金を出し、手足を動かすことでビジネス化を図るわけだが、当然、こういう「プロデューサー」業務ができて、かつ、お金が出せる人は限られている。
しかし、パートナー投資家に対してプロデューサー的業務をサポートするプラットフォーム・事業体があれば、どうだろう。
これを金融側のネットワーク上に構築しよう、ということだ。

例えば、シニア金融マンやシニアビジネスマンをターゲットにしたらどうだろうか?
「あなたの第2の人生(あるいは、副業)を『プロデューサー』として生きてみませんか?」
「こんな面白い作品と原作者がいます(ウチのプラットフォーム上に展開します)」
「この作品にはこれだけのファンがいて、(ウチのプラットフォーム上で)『サポートしたい』という小口の寄付がたくさん集まっています」
「この原作を大きなビジネスに育てるため、あなたが出資者となり代表組合員とした『有限責任事業組合(LLP)』を作ります。原作者を組合員にして還元する仕組みにしてもらいます」
「アドミ面のサポートやビジネス上のアドバイスはしますが、作品と原作者を育てて大きくするのは、プロデューサーの仕事ですよ。頑張ってください」
「制作会社(制作プロデューサー)などとのマッチング機能も(ウチのプラットフォーム上に)あります」
「有望な作品は、企画開発ファンドから資金サポートします」
「製作委員会のかわりにSTO組成のアドバイスを行います」
「一連のアドバイスフィーはいただきますが、成功報酬はもらいません(成功はあなたと原作者のもの!)」
等々・・・。

STOの運営ビークルにこのLLPがなる、あるいは製作委員会メンバー(出資)で入ることで、「版権」の権利者として対価を得て、原作者に還元してもらえるという、エコシステムを作れないだろうか?

今、自分の周りにいる方々に声をかけてみようか。また「あなたはいつも、妄想が過ぎる」とたしなめられるだろうか?

<まとまらない「まとめ」>
また長文となり、まとまらないまま終わる・・・せめて少しでも読みやすいように、と、「まとめ」を設けることにした→→→冒頭に