法定通貨の場合を考えると、顧客が金融機関に口座を開設し送金先の海外口座に振り込む、といった方法に限られる。実際、仮想通貨でも取引所の口座から別の取引所口座への振り込み送金、というルートもあり、特に、海外でしか扱っていない仮想通貨を海外取引所で買う、といった際に通常利用されている。
この場合は、金融当局は顧客口座を負うことで、ある程度(完全に?)の資金決済実績をつかむことができる。
一方、前述の“直接送金”の場合、取引所を介さないので、今のところ、当局が資金の流れを追う手段がない。否。すべての取引履歴は、ブロックチェーン上に記載され公開されているのだが、その履歴に誰と誰が関与したかを当人同士以外がつかむことがほぼ不可能なのだ。
当局にとっては、こういった“抜け道”を使われて、犯罪などに資金が利用されることはなるべく避けたい、と感じるはずだ。
では、すべてガラス張りになればいいのか? 実際にブロックチェーンは履歴として公表されているわけなのだから、“もし仮に”履歴にある個々のIDが特定できれば、当局が犯罪者による資金のやり取りを追うことは可能なはずだ。
しかし、そのために「すべての取引者は当局にIDを公表すること」となってしまってはどうだろう? 昨日の飲み代の友人への支払いまで、いちいち当局に把握されてしまうのは、だれも望まないはずだ。それは完全な“監視社会”に等しいからだ。
だから、今回の記事で警察が「仮想通貨での出資は摘発が困難だ」というのなら、それを解決するために、監視社会にならないレベルで、かつ、問題のある送金を把握できる方法はないものか? と考えるのなら、それは建設的なことだろう。実際にどういった対策があるかは不明だが。
例えば、一定金額以上の仮想通貨の支払い(送金)の際、申告を“個人”に義務付ける、というのは現実的だろうか? いやむしろ、税務申告の義務がある以上、それは必須ではないか、という話もあるかもしれない。
とはいえ、それはあくまでも税金計算上の話であって、取引そのものをガラス張りにせよ、ということではないはずだ。また、日常の決済でも雑所得の発生を計算する今の取り扱いは、“通貨”として甚だ大きなデメリットだと、個人的には感じている。
また、海外送金に関連しては、先述の金融機関での規制に加え、一定以上の資産家には『海外資産・国外財産調書』の制度がある。なので、フローではなく、ある段階での海外資産に仮想通貨を加えるのはルールとしては当然に思われる。
自分はこの辺の専門家でも何でもないわけなので、いろいろ書いても仕方がない。いずれにせよ、何度も言う通り、送金履歴が把握できないのは「金融商品取引法の問題でも何でもない!」ということだけは、わかっていただけると思うのだ。
では、なぜ、この記事には「金融商品取引法に問題がある」という書き方がされているのだろうか?
【ICOがすべて問題なのか?】
答えは簡単だ。当局は今の「ICO(Initial Coin Offering)」をやめさせたいのだろう。そして、その意向を受けて、こんな“まちがってる!”ロジックの記事が、アナウンス効果を狙ってマスメディアから流れている、というわけだ。おそらく。
「仮想通貨(払い込み)=詐欺 →金商法に問題 →ICO禁止」
こんな単純化した図式を浸透させたいのだろう。
ICOというのは、お金を集めたい発行者(体)が<1>独自の仮想通貨を発行して、その集めたお金で商品やサービスを提供する仕組みを作り、<2>その仕組み内で利用できるサービスを与えたり、<3>その仕組みを裏付けに、あるいは生じた利益の対価として収益還元しよう、というものだ。
例えば、
<1>「新しい画期的なパンを作る工場を作るのでお金をください。代わりに『パン硬貨』を発行します」
<2>「『パン硬貨』を持っている人は引き換えに今後、次々作られる新しいパンが真っ先に食べれたり、一緒にパン制作に参加できますよ」
<3>「もし、たくさんパンが売れてお店が潤ったら、利益の一部を還元しますよ」
という感じだ。
面白そうだけれど、ちょっと問題も感じないだろうか?
<2>の場合は、お金を出す人のイメージは、あくまでもこのお店のファンで、パン硬貨に期待するのは“サービス”にすぎない。
だが<3>は、むしろ、“利益”を求める要素が大きい。もちろん、このパン屋のファンもいるだろうが、それ以上にパンの売り阿賀が上がって“儲かるんじゃないか”と期待する人が多そうだ。
もちろん、<2>の場合も、サービスが素晴らしいから、このパン硬貨自体がプレミアム化して流通市場で高値で取引される、という可能性が(大いに!)あるので、利益を期待する側面がないではないが、主眼に置くのは利益還元そのものではない。
→その4
[…] →その3 […]