●SBI、香港撤退を検討 関西の金融都市構想推進(Yahooニュース 9/9(水) 12:26)
https://news.yahoo.co.jp/articles/a672b15507bdcc1f4b7ae3042160818a48a6b375

以前、「香港からシンガポールへ」「香港マネーが日本へ退避?」でも書いたが、中国からの締め付けが厳しくなった香港から日本の金融機関が撤退するのでは、という機運の中、SBIが香港撤退を明確化した。
STOとアイドルファンドと徳の経済」でも書いたように、SBIは野村証券とも組んで(?)STO(Security Token Offering)を推進していこうとしているが、その日本拠点を、今年ようやく総合取引所化した大阪取引所に据えたい、と思っているようだ。
上記記事で、SBI北尾社長は「大阪や神戸に国際金融センターを誘致する構想」を示している。香港から退避するグローバル金融人材の日本還流にも期待しているのだろう。

大阪・神戸に日の目が当たるのは、関西地盤の自分としては素直に期待できる話だ。
一方で、彼らグローバル金融人材に税制優遇を与えるとなると国内での様々な反発が予測されるし、そもそもこれを機に国際金融センター化したい東京とのバッティングもある。証券取引所として世界的な知名度を誇る東京に対し、大阪市場はほぼ無名に近く神戸には取引所すらない(昔、神戸証券取引所があったらしいが)。知名度的にも国際金融センターを名乗るのは簡単ではなさそうだ。

とはいえ、自分が関西人だから、というだけでなく、(コロナ過で客足は遠のいてしまったが)関西圏は海外観光客からの魅力も高く、大阪には万博やIR構想もあることで、様々な人からこの構想は関心を持たれることだろう。“政治的”にもこの動きは波及してくることだろう。
自民党の総裁選では石破さん、岸田さんに比べ、菅さんが一歩も二歩もリードしているが、その菅さんは先月突然、「大阪と福岡を国際金融センター(特区)に」と言い出している。

●「菅・麻生」が“利権”巡り共闘 東京への「金融センター」誘致を阻止する理由(Gooニュース―デイリー新潮 2020/08/26 05:56)
https://news.goo.ne.jp/article/dailyshincho/politics/dailyshincho-655245.html

この記事だけを読むと、利権がらみの動きであること濃厚だ。そもそも、香港からの人材流出を当て込んだ動きだとすれば、
「来年度の予算計上なんて、スピード感が遅すぎ」
「海外金融事業者からの問い合わせ窓口『コンシェルジュ』を置く程度で何ができる」
「香港の強みは中国マネーと中国市場へのアクセス力であり、(日本の各都市はシンガポールに比べ)それを代替できる強みはない」
という反論が来るのも当然だろう。
が・・・それでも、あえてこの構想をポジティブにとらえてみる。

まず、歴史的な観点から。
東京(江戸)が発展する古く前から博多と大阪(堺)は国際貿易港だった。大航海時代に西欧諸国がアジア進出していたころは日本では室町時代から戦国時代(および江戸時代)に相当する。そのころ、戦略物資「銀」を中心に様々な物資が海をまたいで貿易されていた。
この貿易の中心となったのは、「後期倭寇」と呼ばれるグローバル商人(密貿易者)たちだ。彼らは日本人というよりは中国人を多数派とした境界人(マージナルマン)だった。
当時は今のグローバリズムの端緒になったような時期だ。むしろ、その後の大英帝国とそれを裏で支えたユダヤ金融資本の発展を考えると、後期倭寇にはもしかしたら“西→東”の世界史を大きく変え、逆行させる“違う道”があったかもしれない、というロマンを感じる。
そして、堺や博多の商人たちは後期倭寇と深くつながっていた(に違いない)。その意味で大阪と福岡には「歴史的ブランド力」がある、といえるかもしれない。
「現時点でブランド力がないから」
「世界競争上、まずは東京の地位を上げるべきだから」
などと決めつけず、境界人が集まる都市としての魅力をゼロベースで考え、構築していければ、長期展望で両都市には可能性があるのではないだろうか。
(マフィア・シティ化の方向は回避しなければならないが)

また、そもそも国際金融センター化をめざして「グローバル金融人材を集める」などというのが間違いで、「グローバルICT人材を集める」方向性を示せれればいいと思う。
(これは、とある“グローバル金融人材”の方から示唆された意見だ)

これからの世の中、伝統的な金融ビジネス(銀行での決済業務、総合証券会社など)は縮小傾向にあることは間違いない。一方で、「金融」「ICT」「e-コマース」の融合領域に新しいビジネスが広がっていくことになる。

ごく一部の富裕層特化のプライベートバンカーなどは別にして、既存の金融ビジネスに従事し古くからの金融商品を売り投資助言をしている海外の金融人材をいくら連れてきても、国際金融センター化に役立つとは思えない。

むしろ、グローバル志向で、金融に“絡む”新しいビジネスモデルを持つ企業を育成することに注力してはどうか。
特区制度に基づき、「収益化しても数年間は法人税を減額できる」「海外から移住した従業員の住民税を回避できる」等のインセンティブを提供して、有望企業にヒトとカネを集めるのだ。
また、グローバルなベンチャーキャピタルなどとのマッチング機能を持った上で、キャピタルゲインに何らかの優遇を行う仕組みなど、積極的な外資勧誘があってもいいかもしれない。
(SBI北尾氏が期待するように、その投資手段にSTOを利用する、という考えもあるだろう)

とはいえ・・・。
今、GAFAをはじめグローバルIT大手はその租税回避行動が世界的に問題になっており、大手IT企業をターゲットにしたデジタル課税の方向性がある。
また、国際金融センターの裏側に富裕層の移住などへの期待があるとすれば、周辺不動産価格が上昇して、貧富の差が拡大し、住民から怨嗟の念が出ることだろう。
日本人は平等意識が高く、極端な税制優遇はなかなか認められないだろうし、そうなれば国際競争上もメリットはない。結局、「貧富の差の発生を許容する」コンセンサスが得られなければ「国際金融センター」など無理なのかもしれない。

なので・・・我田引水(最近このブログでは、この我田引水につなげることを課しているので。恐縮です)。
我々は「欲の経済」のほかに「徳の経済」を持つ必要があるのかもしれない。それは民間部門での富の再配分行動であり、アドコマースによって企業からの資金流入も期待できる。

その歩みが関西で始められればうれしかったりするが、これは単なるつぶやき、かな。

(2020/10/13追記)
ネット記事をあさったら、自分がこの記事を書く前の日付で、SBI北尾氏の考えが掲載されていた。

●SBI北尾社長「デジタル証券の取引所を大阪・神戸地区に設立」=日経(COINTELEGRAPH JAPAN 2020年09月03日)
https://jp.cointelegraph.com/news/sbi-kitao-ceo-revealed-to-open-sto-exchanges-in-osaka-or-kobe

「日経によると、北尾社長は8月上旬にも大阪府の吉村洋文知事と面会し、「大賛成だ」との賛同を得たという。さらに8月下旬には自民党総裁選に出馬している菅義偉官房長官にも構想を説明した。」
「SBIはセキュリティ・トークンを売買できる取引所を設置する他に、フィンテック企業の招致にも力を入れ、今後出資する際には『大阪・神戸に日本拠点を置くことを条件にする』とまで力を入れる。」
「SBIは6月に開かれた経営近況報告会の中で、シンガポールにデジタルアセット関連会社の新会社設立や、国内でのSTOのセカンダリーマーケットの整備を進める方針を発表。発行を行うプライマリーマーケットとともに、トークン保有者が売買を行うセカンダリーマーケットをPTS(私設取引システム)で整備する考えを示した。」
「セキュリティ・トークンの取引所開設に関しては2020年2月に時事通信のインタビューで、2020年度中にも私設取引所を設立する方針を明らかにしている。私設取引所はSBI単独ではなく、複数の証券会社と共同で行う方向で調整していた。」

なるほどなるほど。
今更だが、きちんと国家戦略と連携しているようだ。「フィンテック企業の招致」については自分の考えと同じで、悦に入る。

ちなみに自分は『コンテンツファンド革命』の中で「知財のセカンダリーマーケット」の可能性に少し触れたことがある。
将来的には、ブロックチェーン→STO→「証券」なるものの多様化→セカンダリーマーケット、という流れが促進されてくるかもしれない。また、映画・ゲームなどのコンテンツは“わかりやすい”ので、コンテンツファイナンスの再構築、という機運が高まってくるかもしれない、などと夢想する。