前の記事を書きながら、少しほろ苦い気分を思い出した。以前書いた『コンテンツファンド革命』にまつわる話だ。
この本は、もともとは、自分がE社という会社にいたときに、E社の名前で出版するつもりで書いていたものだ。E社は当時、第二種金融商品取引業(二種金)の登録を目指しており、それが叶い“いざ、勝負!”と世に出るタイミングで出版し、販売促進用に利用しようとしていた。自分は結局、E社が二種金を取る(プロジェクトスタートから4年近くかかってようやく取得できたと聞く。本当に大変でしたね、お疲れさまでした!)前に離れることになり、その「販促本」を出版するのが無理、となったので、自分で電子書籍として世に出すことにした。同社の社長が書かれた部分などを割愛し、その上で大幅に文章追加及び再構成した内容になっている。
この本には顔写真入りのインタビューページが2か所ある。世界的映画プロデューサーの井関さんと、映画館ビジネスも手掛けるT社に所属し、若手クリエイター支援をずっと続けておられる沢村さんだ。元々、E社の販促本として出すよ、ということでインタビューに応じていただいたのだが、自分という個人の、しかも広範に読み手を得る可能性が全くない電子書籍での自主出版にもかかわらず、そのままの掲載を許諾していただいたお二人には、本当に本当に・・・本当に、言葉がないほど感謝している。
販促本を作ろうとしていた際、実はもっと多くの方々に、寄稿やインタビューなどでご参加いただきたい、とお願いしていた。
例えば、今はなきA社というクールジャパンの大型企画をハリウッド映画に展開することを目的とした、半官半民のような会社の方々。理由についてはつまびらかでないが、丁重にお断りされた。後の経緯を見ると、いろいろごたごたもあったので、あまり積極的に発信をしたくなかったのかな? と推察する。
そのほか、二人のKさんという既知の方々にもお声掛けした。
一人目のKさんは、自分がコンテンツ側の業界に入る契機になった「日本映画エンジェル大賞」に企画を応募するきっかけになった方だ。その後、海外映画祭の企画マーケット担当者になるきっかけも与えてくださった。自分にとっては恩人でもあり恩師でもある。
そんな恩師に、「閉塞した日本の今の環境に新たなムーブメント(の復活)を!」と勢い込んで行動していた我々の販促本の巻頭文をお願いした。好意的にお聞きくださり、我々はご快諾いただいたものだと思い込んでいた。しかし、ある日、「悪いが、巻頭文を書くことはできない」と連絡が入った。
詳細な理由はわからない。だが、Kさんは当時(今もだが)お役所をはじめ、業界内に広範なネットワークをお持ちで、どうやら、我々の動きに“乗る”のは、そういった先に対して差しさわりがあり“得策ではない”と考えたらしい。
自分は控えめに言うと、「非常にがっかりした」。純粋な気持ちでいろいろな人に声をかけ、巻き込み、とはいえなかなか理解が得られなかった頃だ。二種金も、取れると思っていた時期をずっと通り越し、生活面でも精神的にもとても苦しかった頃だったからなおさらだ。そんなときに、(先方はさほど大きなことと考えておられなかったのだろうが)信頼を寄せていた恩師に切り捨てられたようなものだったからだ。
とはいえ、それ以降、Kさんと疎遠になってしまったのは残念だ。それまでご挨拶を欠かさずしていたのだが、この精神的な打撃でこちらから出向くことがなくなり、その後、なんとなくお会いすることがなくなっていった。
Kさんの存在があって自分がチャレンジを進められたことは事実なので、いずれまた、お目にかかれる機会があればいいな、と思っている。
もう一人は、この分野で実績を持つKさんで、先述のKさん同様、自分にとって恩師に当たる。Kさんは大手広告代理店に勤めており、以前、転籍して自ら起業し、日本におけるコンテンツファイナンスの礎を築かれた一人といえる方だ。Kさんはその後、大手広告代理店に戻り、会社員として働いておられる。
(10/8追記→)実は、Kさんがすでにこの会社を辞めておられることをつい最近知った。今、Kさんならでわの”自分に合った”仕事をなさっておられるらしい。結果、一流アスリートに感謝されたり。。素敵な話だ。
販促本にKさんの著書を引用させていただいたこともあり、少しコメント的なことをお願いしようとした。
「以前ならともかく、今は勤め人なので、こういうことは自分だけで決められないんだよ」
Kさんはすまなそうに、会社のコンプライアンス部門が、コメントを書くかどうか決裁するためには、我々がこれまで書いた内容を読ませてもらう必要がある、と言っている、と連絡してこられた。
社内では「そんな干渉されるなら、今回は断ってしまおうか?」という声もあったが、自分は恩師でもあるKさんにコメントしていただきたかったので、某大手広告代理店のコンプライアンス部門に当時の原稿を渡し、決裁を待つことにした。
確か・・・2か月とか3か月とか、そんな無駄に長い時間を経て、「コメントを掲載させるのは無理だ」となった。曰く、時代が変わりコンテンツファイナンスの新たなマーケットを広げてゆくために、既存の業界も変わらなければならない、という論調が、どうやらコンプライアンス的に問題だったらしい。
言論の自由が確保されているはずのこの国で、前向きな提言を行うことに何の問題があったのか今でもわからないが、おそらく、既存のビジネス世界に属する人たちの観点からは「変わる必要? そんなもの無いね! ふざけるなよ、小僧」とでもいうことだったのだろう・・・しかし、それって“コンプライアンス”チェックなのだろうか?
当然、憤懣やるかたなしだったし、さらに自分には、その会社がKさんのコンテンツファイナンス分野の実績を過小評価しているように映った。Kさんともそれ以来お話ししていないが、この経緯はKさんにとっても悔しいことだったのではないか、と勝手に思っている。
ちなみに、ダメ出しされた“時代が変わる”“変化の必要がある”というのは、『コンテンツファンド革命』で書いている内容とほぼ同じだ。
「デジタル化で外部環境が大きく変わる」「海外、特にアジアマーケットの拡大で外部環境は大きく変わる」「ファイナンスが村社会から外側に広がる」(3つ目は、“こんなに変わるのだから、変わるべし”、といった期待)。HuluやNetflixの台頭やそこでのビジネスチャンス、中国の国力増強に伴う文化振興(侵攻?)・・・何だよ、実際にその通りに“変わった”じゃないか! 株式会社●●のコンプライアンスの方々、「一体、何がコンプライアンス的に問題だったんですか?」
実は、以前、ここ(『真央ちゃんになりたい』という企画を立ち上げるきっかけの一つになった件)に書いた古い友人は、このKさんの同僚だ。2007年当時、同じ部署でKさんの机の後ろに彼が座っている、という状況だったらしい。今はお二人とも別の部署で別の仕事をされている。
本当に・・・いろんな“変わる”ためのチャンスがあったはずだと思う。Kさんもその友人も非常に優秀な方々だし、おそらく個人で深く語りあえれれば、相乗効果でいろんなことが実現できたのではないかと思う。もしかすると黒船Netflixなどの出現より前に、グローバルなコンテンツビジネスとファイナンス環境づくりも・・・言い過ぎか(笑)。さすがに、自分をそこまで過大評価はしていませんので、これは筆(カーソル)が滑った、ということでご勘弁願いたし。
いずれにせよ、過ぎたことは過ぎたこと。これからがらっと世の中は変わる。要は、その前に我々はどう動くか、だ。
しかし、大企業などの“中のオジサンたち”が、そうやすやすと“変わってくれる”とも思えない。彼らの“周りの(近い)”人たちだって、大きなパワーに忖度して生きていくしか選択肢はないのかもしれない。
しかし、もしそんな “現状をなるべく維持しよう”という無言の圧力が変化の芽を潰す方向性に動いてしまっては、それは「日本がだめになる」ことにつながってしまうのだと思う。そのタイムリミットだって、そんなに先ではないのかもしれない。
だから、自分が「官民一体となって」的な大企業優先主義をにおわせるキャッチフレーズが苦手なのはどうかご理解いただきたい。別にその方向性に対しネガティブなわけではないのだ。自身も大企業出身者なので、中の人々のメンタリティーにも大いにシンパシーがある。むしろ自分など、まさに“変われない”族の代表格だった男だ。
なので・・・偉そうに書いてスイマセン(笑)
[…] さて、ここやここで、自分の「官民一体となって」アレルギーについて書いたが、今、政府は「2023年までに20社のユニコーンを創出する」ことを成長戦略の目標に明示し、自分は知らなかったが今年の6月には経済産業省が主体となった官民連携のスタートアップ育成・支援プログラム「J-Startup」が開始されているようだ。 https://forbesjapan.com/articles/detail/24038 →11/22 Forbes Japan「今後の日本を支える、スタートアップのあり方とは? 2023年までに20社のユニコーン創出へ」 このプログラムでは、スタートアップ企業の支援を政府が大企業が“サポーター”となって行う、というもので、有識者の審査・お墨付きを与えたスタートアップのベンチャーを大企業が資本参加した上で経営参画し、支えていこう、というものだ。 大企業とスタートアップの競創、ということで、身動きのいいベンチャーと地道に研究開発を行ってきた大企業の“埋もれた”部門を結びつける、といったことがこのプロジェクトの狙いらしい。 これも、非常にいいことだと思う。素晴らしい、とも思う。ただその反面、「方向性はいいけれど、実際にうまく回るのだろうか?」という懸念があるのも事実だ。 例えば、経営の独立性はきちんと担保されるのだろうか? 経営者のフリーハンドはどの程度確保されるのか? 大企業がガバナンス面は担うとして、実務面でベンチャー側の自由闊達さと大企業の優秀なスタッフとの融合はうまく図れるのか? などなど。おそらく、ケースバイケースなのだろうし、すべてのジョイントがうまくいかない、などということはないだろうが。 […]