先日、ここにFacebookがアナウンスした仮想通貨(暗号資産)「LIBRA」の記事を書いた。
この件は自分にとってはおおむね“ポジティブ”な印象で、記事の感想にも「伝統的な金融ビジネスという“古い世界”と、SNSやそのデータ活用ビジネス、キャッシュレス決済という“新しい世界”は、まったくつながっているんだなあ、と思う。そして、既存の銀行や証券といった“古い枠組み”でしかものを考えられない人は、時代に置いて行かれるのでは、という懸念も。」と書いた。
しかし、このニュースがリリースされて以降の世の中のリアクションは、ニュースを見るとおおむね“ネガティブ”なようだ。
(なお、このブログ記事はこの新聞記事を読んだ日に書き始めたのだが、いろいろ用事があって書くのに時間がかかってしまったので、若干、古い(?)かもしれない)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46854360S9A700C1EE9000/?n_cid=NMAIL007
→「世界の中銀、リブラ警戒 金融システム「ただ乗り」も 2019/7/3 1:31日本経済新聞 電子版」
各国の金融当局が、リブラに「いろいろと問題あり」と注文を付け、「考え直せ、Facebook!」を連呼している。
この日経記事のまとめでは、以下が主要ポイント。
1.金融システムの安定:裏付け資産の「銀行預金」が大手に集中したり、「短期国債」の大量購入で、金利に過度な低下圧力がかかる恐れ
2.資金洗浄対策:本人確認の徹底が難しい新興国に大量の潜在顧客
3.金融政策の有効性:無利子のリブラが増えれば、金利を調整する伝統的金融政策の効果減少か
4.個人情報保護:莫大な個人情報と金の流れを両方握ることの警戒感
う~む。どれもなんとなく釈然としないクレームな気がする。
まず、1について。
もともと、仮想通貨はよく「裏付けとなる資産根拠がないから信用できない」とか、「ドルとかとリンクしている(ステープルコイン)ならともかく、マーケットで大幅に価格変動するから決済手段として使えない」などと言われ続けてきたので、裏付け資産をきちんと持って、通貨バスケット方式で運用してそのバスケットとの為替レートで法定通貨と交換する、というのは、かなり良心的な部類に入る気がするのだが。
そして、その膨大なポジションが債券市場に影響を与えるのも、これまたやむを得ないわけで。金融当局や金融機関は、リブラの実需や需給予測をしっかりとしなければならないだろうが、それはある種、マーケットに巨大な金融商品(?)が登場するわけだから、当然やらなきゃいけないことだろうし。
昔々、昭和の高度成長期に株式型投資信託が大流行し、東証など株式市場での存在感から「井の中のクジラ」と言われた。そして、山一證券の最初の破綻(この際は田中角栄の英断による日銀特融により、山一は復活)もあった60年代の証券恐慌で取り付け騒ぎのようなパニックを起こした。
しかし、だからといって投資信託が「悪者」として扱われたことはない。むしろ、国民の財産形成、資本市場への資金安定供給といった“社会的意義”を認められ、その後もリスク性資金の行き場として個人金融商品の中核のポジションにい続けている。
リブラは、今わかっているだけでも、銀行口座も持てない新興国の民衆に決済手段を与え、海外送金のコストを劇的に下げる、という“社会的意義”が期待される。
だから、“マーケットにもたらされるであろう大きな影響”のみをもって「問題だ」というのには首をかしげる。
さらにこの記事には、「つまり地方銀行の預金者が預金を下ろしてリブラを買った場合、運営者が準備金を地銀に預け直す保証はなく、結果としてメガバンクなどに預金が流れる可能性が高い。」と書いてある。それがさも問題なような書きぶりだ。
いやいや、地銀から預金を抜くのは消費者(地銀預金者)が信用や利便性がリブラのほうが高いと判断した結果であって、彼らがそう判断するならしょうがないでしょう。そして、ポジションを持つリブラ運用者側も、クレジットの高い金融機関の預金を持とうとするのは仕方なくないですか?
この説明は、うがった見方をすれば、「日本の地銀がつぶれるかもしれないから、リブラなんか発行するのやめてよ、Facebook!」と言っている感じで・・・知らんがな! そんな信用力のない地銀はリブラが有っても無くても、いずれつぶれるっしょ。
それから、2のマネロン問題。
これは、仮想通貨について常に言われる問題でリブラに限った話ではなく。。。
なので、「マネロン対策のために仮想通貨をどう管理、監視すべきか?」という事柄のはず。
リブラはあてはまらないが、マーケットで価格が上下するタイプの仮想通貨は、日本では仮想通貨取引所を一定のルールで縛ってKYC(本人確認手続き)を徹底させたり、当局への報告義務を課す方向である様子。
リブラにような法定通貨と連動するタイプのコインは“資金決済法上の仮想通貨ではないですよ”と考えられているようなのでやや混乱するが、どっちにしても「マネロン対策のために口座チェックのルールを作りましょう」というポジティブな議論が必要なのだろうし、その方向で問題ない気がする。
3についてはやや難しいので、本当はパスしたいが、何となく思うのは・・・。
一般に法定通貨は「信用通貨」であり、銀行に借りに来る人がいて(信用供与されて)初めて発生するものだ。で、借金を返さなければいけない人たちやこれから借りようとする人たちにとって、その返済がおおむね“余裕”なのか“アップアップ”なのかを当局が判断して、市場金利と資金流通量を適正管理しようと金融政策を執り行う。
一方で、電子マネーもそうだが、仮想通貨もほとんどが「信用供与」で生まれるわけではない。既存資産であるモノやお金を対価として、場合によっては特典として無償で、交換されることで発生する(当然、これは説明上の話で、通貨発行のほうが先行するのだとは思うが)。
なので、“通貨”といっても仮想通貨は、「決済手段」になる、というところが法定通貨と同じなだけだ。。と思う(違うのかな?)
例えば市場変動型の仮想通貨と法定通貨との交換レートには仮想通貨自体の需給バランスが反映されるので、本来ならば発行体や運営母体は(それが存在すれば)、発行量を適正に管理すべし、となるべきなのだろう。
リブラは通貨バスケットに対するペッグ制だから、それを守るために発行量を実際のマーケットで売買、利用されている量と大過なくコントロールしなければ信用棄損を起こす可能性があるので、リブラを管理するLibra協会はそこをきっちり管理しなければならないのだと思う。
でもそういう信用維持という意味での通貨量コントロールと、伝統的金融政策の対象である信用通貨の管理を同列に考えていいものなのだろうか?
この辺は、正直、どう考えるべきか判断するにあたり自分の能力に自信がない。できれば詳しい人に教えていただきたいが・・・。
さりながら現時点で、この3の懸念事項は、何か釈然としない。
そして、4.個人情報保護の問題。莫大な個人情報と金の流れを両方握ることの警戒感・・・それはそうだろう!
でも、これはリブラの話でもなければ金融の話で何でもない。もっと大きな話だ。
株式相場がずっともてはやしてきた「IoT」含め、これからの世の中では、大量の個人データ、個人情報を誰が握る。それを“宝”に変えるのか、あるいは人民を縛る“鎖”に変えるのか、が問われてきているわけだし、GAFA(あるいは、中国型国家管理体制?)などへのアンチ潮流として、GDPRを軸にした個人を守ろうとする動きが出てきているわけで。
なので、この記事に示してあるどれもこれも、「リブラだから問題!」という話ではない気がする。
で、いろいろと言っているけど、いみじくもこの記事に書いてあるように「通貨発行という国家権力の根幹への挑戦という受け止めがある」→これが問題なんでしょ? 気に入らないんでしょ? というのに尽きる気がする。
なんとなく、このアンチ記事の裏には、「こんなに問題があるから、リブラは国家権力を中心に、国際的に管理するからな!」という脅しのような意図が感じられる。
もっと陰謀論チックに言えば、国家権力やそのさらに大きな枠組みの根幹を担っている、そういった方々が、マスメディアにアンチ記事を書かせて煽らせているのかなあ、と。
たとえば、「各国当局が多大なコストをかけて維持している金融システムに「ただ乗り」することへの警戒感も強い。」という指摘も書いてある。
でも、例えば日銀内部にだって、ブロックチェーン決済を現行の銀行間の資金流通の一つのオルタナティブとして活用しよう、という動きがある。JPモルガンや三菱UFJなど、独自の仮想通貨発想を具体的に検討している“そっち側”の方々もいる。
ならば、「何でリブラ(Facebook)ばっかり目の敵にしているのですか?」、という、、、ね。
「だって、Facebookは現に大量の個人情報流出をしでかしたじゃないか!」「世論誘導に不正に利用されたじゃないか!」などの反論がありそう。
でも・・・ね。個人情報の流出はFacebookだけですか? よくわからない世論誘導はFacebookだけですか? 、、、ねえ。
確か、前の記事では、Libra協会は当初こそFacebookやMastercard、PayPalなどグローバル企業や学術機関がガバナンスの枠組みを担うが、順次、分散性を拡大していく、という説明があった。
思えば、仮想通貨ブームの裏には古くからの“国家(?)監視を許さない!”「サイファーパンク」運動があって、一方で、法定通貨側には「ディープステート」的な陰謀論が跋扈している。
この二つの対立軸、ということなのか?? あるいは、事はそう単純じゃないのかな。まあ、上記陰謀論では「あまりに幼稚だな」とおしかりを受けるかもしれん。
最後はいつものセリフで締めますが・・・。
「そんなこと、一庶民がいろいろ悩んでも仕方ないが、それでもいろいろ頭をぐるぐるさせて考えておきたい」
[…] 昨年、このブログで「Facebookの仮想通貨『Libra』」「リブラとアンチ」という記事を書いた。 自分としてはフェイスブックのデジタル通貨「リブラ」には世界のゲームチェンジャーとしていくばくかの期待をしてきた。そしてそれ以降の一連のリブラをめぐるメディアの動きをみて、やはり「世界の基軸通貨:ドル」を脅かす存在は今の秩序においては認められないんだなあ、と実感したりもした。 ちょうど「MMT理論」が流行るなかで国家(陰謀論的にいうと別の主役がいるが)の通貨発行権の強力さをいまさら学び、また通貨(貨幣)の虚構性への関心も個人的に増している(→『天下の秤』という物語を世に出したい!と活動準備中)。 さりながら今のコロナショックを鑑みこれから世界的にMMTにのっとって巨大な財政支出が実践されていくであろう(と期待する)世の流れの中、特に米国追従(心中?)型国家の日本にいる身としては、ドルと円の信用を脅かす存在はタイミング的にも歓迎されないよなあ、と思ったりもしている。 そんなところに「リブラの軌道修正」のニュースが入ってきた。 […]