●堂島商取「総合取引所」目指す SBI主導で経営再建(時事通信 2020年10月12日19時03分)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020101200794&g=eco

大阪の堂島商品取引所(以下、堂島商取)をSBIグループが支援し、総合取引所化を目指す方向、というニュース。
SBIホールディングスが15%出資するほか、傘下のSBIエナジー社長で前金融担当相(!)の中塚一宏氏が社長に就任し、SBIグループ主導で再建を図る、ということだそうだ。
ちなみに、この中塚氏(ネット記事では小沢一郎氏の弟子、という方らしい)は民主党政権下で再生可能エネルギーの固定買い取り制度(FIT)の実現に尽力した人物らしい。FIT推進はソフトバンク孫正義氏の肝入り政策でもあった。

以前、ここ(「金融都市構想と後期倭寇、その他」)で書いたようにSBIの北尾氏は「デジタルトークンのSTOの拠点を大阪や神戸に」という主張をしていたが、この記事はそれに連なるものなのだろうか(直接的にはかかわりはないだろうか? なお、このブログ記事には先ほど「コンテンツファイナンス発展の可能性」について追記しておいた)。
いずれにせよ、今回の動きは、菅政権の「国際金融都市構想」には追い風かもしれない。

正直、最初にこのニュースを読んだ最初の感想は、「へーっ、『堂島商品取引所』なんて有ったんだぁ」という程度のもの(いや、お恥ずかしい)。
「これではいかん!」と、少しネットで情報収集してみた。

●「堂島の灯を消してはならない」 総合取引所を目指す大阪堂島商品取引所(Yahooニュース 10/13(火) 9:40)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kosugetsutomu/20201013-00202770/

この商品アナリスト小菅努氏(マーケットエッジ株式会社代表取締役)の解説がわかりやすかった。小菅氏の解説をまとめてみる。
・10月12日の有識者会議「経営改革協議会」(議長=土居丈朗慶応大教授)で「大阪の堂島商取を総合取引所化し日本取引所グループ(JPX)と競わすべし」と提言された
・堂島商取は現在国内唯一のコメ先物市場だが農業団体などの反対があって機能していない
・「ローカルな単一商品市場ではなくJPXと競う(グローバルな?)総合取引所にすべし」と、以下が提言された将来構想
1 株式会社化・増資・経営陣刷新
2 コメの現物市場も設け、先物取引と両輪で株価指数先物の匹敵するコメ先物指数を組成(可能性)
3 当面は(SBIグループから支援を受け)農産物取引所(農水省管轄。コメ・トウモロコシ・大豆/天候?)の魅力を拡充
4 将来は商品(経産省管轄。金・原油)、金融(金融庁管轄。株価指数・為替)、新ジャンル(暗号資産・個別上場株)の先物を組成し、これらのオプションも取り扱う
・以下、小菅氏の解説
・この提言を受け入れるかは堂島商取にかかっているが、これはいちローカル取引所の問題ではない
・提言された将来像は「既存のデリバティブ市場の枠にとらわれず、リスクマネジメントを必要とするあらゆる取引のリスクヘッジ市場」
・現在、JPXはCMEやICE、LSE、ドイツ取引所、香港取引所などと競合・共存を目指しているが、堂島新取引所は強い刺激に
・両市場で同一銘柄を扱えば国内での裁定取引も期待。共倒れリスクも
・菅政権の国際金融都市構想の一環になる可能性
・ただし、現段階では規模が違いすぎて実現は程遠いが、日本の市場環境に大きな影響をもたらす提言だ

まず、この解説を読む限り、直接的にはSBIの「関西STO構想」とは別のようだ。
むしろ、もっと壮大な構想のようでで、「えっ」と目が泳いでしまった。
国内に散らばっていた各種の取引所がJPXグループに統合されていった経緯もあって、取引所の国際競争力向上のためには「寡占化」の方向性やむなし、とコンセンサスが固まってきた気がしていたが、ここへきて世界を大きく“揺り戻す”機運があるのだろうか。

先日の東証の売買停止事故を見てもわかるとおり、取引所のキモは「システム」そのものだ。申し訳ないが、現時点では、堂島商取は東証arrownetや世界の主要取引所に伍するほどのシステムは持ち合わせていないと思われる。
将来的に様々なジャンルの銘柄を取り扱うとして、システムをイチから構築するのは大変なので、この話は、ほかのグローバル取引所グループとの連携、という話につながるのかもしれない。

取引所のグローバルな勢力図については詳しくないのでネットを漁ったが、主要取引所はこういった構成らしい(間違っていたらすみません)。
・CME(シカゴマーカンタイル・エクスチェンジ)グループ:金融・商品取引所。主要商品=金利・エネルギー、金属
・ICE(インターコンチネンタル・エクスチェンジ)グループ:金融・商品取引所。NY証券取引所の親会社NYSEユーロネクストを傘下に治める。主要商品=株オプション、エネルギー先物・オプション
・NASDAQ:世界初の電子取引所(情報サービスでも稼ぐ)。主要商品=株現物
・香港取引所(香港交易所):ロンドン証券取引所の買収を画策(頓挫)
・ロンドン証券取引所グループ:イタリア証券取引所の売却など、ビジネスモデル転換を模索?

JPXグループの先物取引所である大証はNASDAQグループの売買システムを採用しているらしい。
JPXとバッティングするであろう堂島商取がJPXやNASDAQのシステムを採用することはないだろうから(?)、CMEやICE、あるいは香港取引所と組む、という動きなのだろうか?
それとも、それこそブロックチェーンで全く新たな決済システムの土台を築くのだろうか? データ量の負荷やバックアップ体制の必要性からは、その可能性は薄いかもしれないが。

例えば、もし当該構想の裏に「CMEの日本拠点化」があるなら、それでグローバルマネーが入ってくる公算が見込めるだろうか? あるいは、「香港取引所の日本拠点化」なら華僑マネーが?
いずれにせよ、大阪を国際金融都市にしてグローバルマネー流入に期待ができるなら、いち関西人としてはありがたい話かもしれない(あくまでも前提が”妄想”なのだが)。

しかし、まあ、「堂島商取の総合取引所化」さらに「国際金融都市化」というゴール自体が、縦割り行政の排除、JPXとの棲み分け、中央と地方行政の反発の払拭、そして税制優遇などへの国民における不平等感の払拭・・・等々と、高いハードルがいくつもある。
(あと、新社長が再生可能エネルギーの買取りを推進した中塚氏ということで、電力卸市場である日本卸電力取引所(IEPX)との合併可能性なども想起したのだが、これこそ、省庁間の利害調整が難しいだろう)

というわけで、この「堂島商取の総合証券化と大阪の国際金融都市化」については、大いに期待するが、いろいろな抵抗を想起するに、なかなか一筋縄ではいかないだろうな、と考える。

ちなみに、今回のニュースを見て “ネット漁り”したのでさっき知ったのだが、ロンドン証券取引所グループは、イタリア証券取引所の売却資金を情報会社の「リフィニティブ・ホールディングス」買収に充てる目算らしい。

●ロンドン証券取引所、伊取引所を5400億円でユーロネクストに売却へ(日経ビジネス 2020年10月12日)
https://business.nikkei.com/atcl/global/19/london/00907/

このリフィニティブ・ホールディングスは金融情報やリスク管理などのサービスを提供する、まだ2年程度(!)の会社のようだ(前身はトムソン・ロイターのファイナンシャル&リスク部門だが、同社はすでに離れているらしい)。
同社はマネロン対策や企業のリスク管理サービスの提供のほか、国連の(SDGs推進のための)デジタル・ファイナンシングなどのテクノロジーのパートナーであるようだ。

この動きって、どういうことだろう?

リフィニティブ・ジャパンは東京を国際都市と冠する「東京国際金融機構(FinCity.Tokyo(フィンシティー・トーキョー)」の正会員で、三井住友銀行や三菱UFJモルガン・スタンレー証券などをマネロン対策でバックアップし、東レや協和キリンなどのリスク管理をサポートしている。
リフィニティブはマイクロソフトとアライアンスがあり、データ連携をしている(?)ようだ。

ロンドン証券取引所グループのこの動きも、“各種個人データ・決済データ収集”の(10/14追記:「国際金融」「GAFA」「中共」といった)「大きな競争の枠組み」にかかわっているのだろうか?
陰謀論的に言うと、「5 Eyes(米英など英語圏5か国の情報機関・情報共有体制)」の枠組みの中で管理体制を敷きたいということなのか?
だとすると、もし大阪に香港取引所勢力を招くことになるなら、それはグローバル覇権競争上、何をもたらすことになるのか?
(陰謀論に凝り固まった、かつ大阪都構想反対派の人なら「堂島プランは日本を分断して大阪を反米化させる取り組みだ」などと言い出すかもしれない)

ちょっと最後の方は「妄想」が過ぎたようで、反省。いち庶民には情報が足りないし、そもそも元々あまり知らない話だったのでしかたがない。
ただ、世界のあちらこちらで、これまでの延長線上にない動きが見えだしており、これらを連携させたこういった“ぐるぐる”思考は大切だと思っている。